人気ドラマ「マッサン」の舞台にもなった余市蒸溜所で生まれるシングルモルトウイスキー「余市」は、伝統の製法で生み出される豊かな香りと、力強く重厚な味わいが特徴です。
本記事ではそんな余市の味わいや種類、おすすめの飲み方について解説し、歴史や製法についても触れることで余市の魅力をご紹介してまいります。
余市の特徴・概要
余市はニッカウヰスキーの聖地と言われる余市蒸溜所で製造されるシングルモルトウイスキーです。
ニッカウヰスキーの商品の中でも高級ブランドとして知られ、世界のコンテストで優秀な成績を収めている日本を代表するシングルモルトです。
個性の強い香りと味わい
余市は余市蒸溜所伝統の石炭直火式の蒸溜と、寒冷で湿潤な北の大地の恩恵を受けてスモーキーで香ばしく、非常に力強い味わいと香りを持ったウイスキーです。
ニッカウヰスキーと同じくジャパニーズウイスキーの大手であるサントリーの商品と比較した場合、大きくは「バランスが良く、まとまった香りと味わい」のサントリーに対し、「本格的なスコッチの製造を志向して個性の強い香りと味わいを持つ」ニッカウヰスキーと言えます。
これによりサントリー商品を嗜好する人とニッカウヰスキー商品を嗜好する人に分かれる傾向があります。
ニッカウヰスキーからノンピートで飲みやすいウイスキーも発売されているのですが、個性が強いと言われているニッカウヰスキーの商品の中でもこの余市シリーズは特に秀でており、ファンの多いボトルです。
力強く重厚なコク
余市のモルト原酒には力強く重厚なコクがあります。
その力強さは木の個性が強く出てしまいがちな新樽で熟成をさせても負けることはありません。
新樽ゆえのウッディな香りを纏いながらもしっかりと重厚感を残して、余市の個性的な味わいを愉しむ事ができます。
余市のおすすめの飲み方
余市の特徴である石炭直火蒸溜ならではのスモーキーで華やかな香り、重厚なコクを愉しむには「ストレート」で飲むのがおすすめです。
また、テイスティンググラスを用いる事でより一層香りを堪能しながら飲むことができます。
余市のスモーキーさはアイラモルト程クセのあるものではありませんので、スモーキーなウイスキーをストレートで飲んで見たいという方の足がかりとしてもおすすめです。
余市の種類
余市シリーズは豊富なラインナップを有していましたが、いわゆるエイジド品は2015年8月に全て終売となっており、現在はノンエイジ品のみの販売となっています。
終売が発表された際には、ウイスキーファンに非常に大きな衝撃を与えました。
ここでは現在販売されているノンエイジ品だけでなく、これまでに販売されていたエイジド品や一部の限定品についてもご紹介致します。
シングルモルト余市
「シングルモルト余市」は、余市のノンエイジ品で現行のスタンダードボトルです。
希少な石炭直火蒸溜によるスモーキーな香り、力強いコク、大麦麦芽の甘みが非常にバランスのとれた味わいになっています。
シングルモルト余市 ウッディ&バニラ(WOODY & VANILLIC)
「シングルモルト余市ウッディ&バニラ」は、余市蒸溜所限定で販売されているシリーズの一つです。
中でもこのウッディ&バニラは熟成樽に由来するウッディさとバニラの香りが際立つボトルです。
余韻は長く、やや渋みも感じられます。
シングルモルト余市 シェリー&スイート(SHERRY&SWEET)
「シングルモルト余市 シェリー&スイート」は、余市蒸溜所限定で販売されているシリーズの一つです。
シェリー樽原酒の比率を多くヴァッティングしており、シェリー樽由来のドライフルーツの甘酸っぱさとややスパイシーな風味が感じられます。
シングルモルト余市 ピーティ&ソルティ(PEATY&SOLTY)
「シングルモルト余市 ピーティ&ソルティ」は、余市蒸溜所限定で販売されているシリーズの一つです。
名前の通りピートが際立つ原酒がヴァッティングされているため、アイラモルトを思わせる強いピート香と塩味が特徴です。
塩味が良いアクセントになってバランスがとれたボトルです。
シングルモルト余市10年
「シングルモルト余市10年」は、酒齢10年以上の原酒のみをヴァッティングしたボトルです。
ノンエイジ品に比べると熟成により甘味が上品でフルーティーです。
石炭直火蒸溜の焦げ感も強く、リッチで複雑な味わいに仕上がっています。
シングルモルト余市12年
「シングルモルト余市12年」は、酒齢12年以上の原酒のみをヴァッティングしたボトルです。
長期熟成によりピート感はやや弱くなりますが、熟成の華やかな甘さが加わり、よりリッチな仕上がりとなっています。
香りは熟した果実と香ばしさ、ほのかにスパイシー。
味わいはシェリーの甘みと熟した果実、滑らかな口当たりで最後にわずかに塩味が訪れます。
シングルモルト余市15年
「シングルモルト余市15年」は、酒齢15年以上の原酒のみをヴァッティングしたボトルです。
長期熟成により余市のやや荒々しいとも言える個性的な香り・味わいに落ち着きが見られ、豊かな甘みとフルーティーな風味が広がるボトルです。
熟した果実の甘酸っぱさ、樽の香ばしさ、ほのかなピート香。
深くまろやかな余韻は長く続きます。
非常に完成度の高い贅沢な一本です。
シングルモルト余市20年
「シングルモルト余市20年」は、酒齢20年以上の原酒のみをヴァッティングしたボトルです。
エイジド品の中で最も酒齢の高い、贅沢で希少な一本です。
香りは超長期熟成により余市の特徴的なピート香が甘くて芳醇な香りの奥に感じられるほどフルーティに仕上がっています。
味わいは甘美で赤ワインのような渋味もあり、円熟味を帯びた酸味や濃厚さを感じられます。
日本のシングルモルトの中でも、一二を争う逸品です。
シングルモルト余市 マンサニーリャウッドフィニッシュ
「シングルモルト余市マンサニーリャウッドフィニッシュ」は、2018年9月に『シングルモルト宮城峡 マンサニーリャウッドフィニッシュ』と同時にリリースされた限定品です。
特徴は通常の熟成の後にシェリー・マンサニーリャを50年間熟成させていた樽で18カ月間貯蔵・熟成し、冷却濾過を行わずボトリングされている点です。
このことにより非常に豊かで複雑な味わいとなっています。
余市の個性にフルーティさが増しており、ピート香とのバランスも良くビターな余韻が感じられ、非常にバランスが良い仕上がりです。
シングルモルト余市 リミテッドエディション2019
「シングルモルト余市 リミテッドエディション2019」は、宮城峡蒸溜所設立50周年に際し『シングルモルト宮城峡 リミテッドエディション2019』と同時に2019年3月にリリースされた限定品です。
1960年代・1970年代・1980年代・1990年代・2000年代の原酒を厳選してヴァッティングさせたシングルモルトウイスキーで、各世代の原酒が絶妙に調和され豊かな味わいになっています。
ダークチョコのようなビターな味わい、香ばしいコク、樽由来のバニラの香り、そして力強いピート香が特徴です。
黒色のボトルに黒のラベルといった高級感のあるボトルも特徴です。
余市の歴史
余市の歴史を知るには、余市を製造するニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝氏の歴史、余市蒸溜所の歴史について知る必要があります。
ここでは順を追って余市が世界を魅了するに至るまでの歴史をご紹介致します。
ニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝
ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝氏は、彼が残した業績から「日本のウイスキーの父」と呼ばれています。
竹鶴政孝(以降、政孝)は酒造業・製塩業を営む家に生まれ、醸造科で学んだ後に摂津酒造へ入社しました。
1918年、純国産ウイスキーの製造を検討していた摂津酒造は、洋酒に興味を持っていた政孝をウイスキーの本場・スコットランドへ派遣し、ウイスキー造りを学ばせました。
政孝は頼み込んで現地の蒸溜所で実習も行い、非常に熱心にウイスキー造りを学んだ姿勢には「ポットスチルの構造を知るために、誰もが嫌がるポットスチルの清掃を買って出ていた」などの逸話が残るほどです。
この彼の現地修行がなければ、今の日本のウイスキーは無いとまで言われています。
政孝の実習記録を基に摂津酒造は本格的に国産ウイスキーの製造を企画しましたが、第一次世界大戦後の恐慌により資金を工面できず、計画は頓挫。
結果、政孝は摂津酒造を退職することとなります。
1923年に転機が訪れます。
寿屋(のちのサントリー)が国産ウイスキーの製造を企画し、寿屋創業者である鳥井信治郎氏がスコットンランドへウイスキー造りの技術者派遣について問い合わせを行いました。
するとスコットランド側から「わざわざ呼び寄せなくても日本に竹鶴という適任者がいるはずだ」との驚きの回答が得られ、もともと摂津酒造とは取引があった関係で政孝とも面識があり、急遽政孝は破格の給料で寿屋へ招聘されました。
鳥井氏と政孝は激論の末、大阪の島本に山崎蒸溜所を建設することとなり、政孝が蒸溜所とそこで使用する製造設備の設計を行い、山崎蒸溜所の初代所長を務めました。
そして、寿屋の純国産ウイスキー製造を実現させたのです。
寿屋では日本人に受け入れられるウイスキー造りのため、スモーキーフレーバーを抑えた飲みやすいウイスキー造りが求められました。
しかし政孝は、本場同様にピートの効いたウイスキー造りにこだわっていたと言われています。
政孝は寿屋で後続の技術者が育った事と、当初の約束であった10年の期間を満了した事を機に寿屋を退職、彼の念願であったスコットランドに似た風土を持つ北海道でウイスキー製造を行う事を決意し、大日本果汁株式会社(のちのニッカウヰスキー)を操業しました。
政孝は現在の日本の2大メーカーにおいて国産ウイスキー造りを直接的に実現させたという、ジャパニーズウイスキーにとって非常に大きな功績を成し遂げたのです。
余市蒸溜所の建設
政孝はスコットランドに似た寒冷で湿潤な気候、豊かな水と澄んだ空気、そしてウイスキーの原材料である大麦とスモーキーフレーバーを生み出すピートが豊富な「北海道・余市」をウイスキー造りの最適地として選びました。
1934年、余市にて大日本果汁株式会社を設立。
ウイスキーの生産から販売に至るまでには、長い熟成期間を必要とすることから当面収益が見込めない事もあり、当初はリンゴジュースの製造を行っていました。
それから2年後、ついに余市蒸溜所のポットスチルに石炭がくべられウイスキー造りがスタートしました。
1940年、ついに余市蒸溜所で生産された最初のウイスキーが販売されます。
そのウイスキーは、大日本果汁の「日」と「果」を取り「ニッカウヰスキー」と名づけられました。
世界を魅了するウイスキー・余市の誕生
政孝逝去から10年後、ニッカウヰスキー操業から55年後にあたる1989年(平成元年)に、余市蒸溜所のモルト原酒で造られたシングルモルトウイスキーが発売されました。
それがシングルモルト余市です。
余市は余市蒸溜所操業以来続く石炭直火蒸溜が継承され、個性の強い香りと味わい、力強く重厚なコクを持ち合わせたウイスキーに仕上がりました。
2001年には「シングルカスク余市10年」がWHISKY MAGAZINE「BEST OF THE BEST 2001」最高得点を獲得、2008年には「シングルモルト余市 1987 Yoichi 20 years old 1987」がWWA シングルモルトウイスキー部門で世界最高賞を獲得するなど、国際的なウイスキーコンテストで非常に優れた成績を収め、世界中のウイスキーファンを魅了するだけでなく、世界にジャパニーズウイスキーの品質の高さを証明しました。
※WWA:ワールド・ウイスキー・アワード
パラグラフ・パブリッシング社が発行するイギリスのウイスキー専門誌「ウイスキー・マガジン」が表彰するウイスキー品評会。
余市の製造方法
余市の製法には大きく2つの特徴があります。
1つ目は現在では珍しい石炭直火式の蒸溜方法、2つ目は寒冷な気候化での熟成です。
この2つの特徴についてご紹介致します。
石炭直火蒸溜
余市の最大の特徴と言えるのが、余市蒸溜所創業から現在に至るまで続く「石炭直火蒸溜」です。
石炭直火蒸溜というのは、竹鶴政孝がウイスキー留学の際に実習を行ったロングモーン蒸溜所で実際に行われていた蒸溜方法であり、本場スコットランドの蒸溜方法を再現したものです。
この方法では適切な火力を維持するために石炭をくべ続ける必要があり、熟練した職人の技が必要となります。
そのため現在では、石炭直火蒸溜はスコットランドにおいても非常に珍しい蒸溜方法となっています。
石炭をくべポットスチルを800℃~1000℃の高温で熱することで適度な「焦げ」が生まれ、この焦げが味わいや風味へ大きく影響を与えます。
この焦げを生み出す非常に高度な技が、余市のモルト造りを支えています。
熟成
ウイスキーにおいて熟成という工程は味や香りに大きな影響を与えますが、これは樽の材料だけでなく、気温や湿度といった環境条件も非常に重要な要素となります。
気温が高かったり湿度が低い環境では水分やアルコール分の蒸散量が多くなり、熟成が早く進み過ぎてしまいます。
その点、北海道・余市の気候は1年を通じて寒冷で湿潤であるためウイスキーの熟成に適していると言えます。
夏でも涼しく潮の香りを含んだ湿潤な空気が樽を乾燥から守り、力強く重厚な味わいに円熟味を加えていくのです。
余市好きにおすすめのウイスキー
余市が好きな方へおすすめのウイスキーを3本ご紹介します。
余市の味わいは力強く重厚なコクとスモーキーさが特徴ですので、コクとピート感を重視して厳選しました。
ボウモア12年
「ボウモア12年」はアイラ島に現存する最古の蒸溜所であるボウモア蒸溜所で製造されるシングルモルト・スコッチウイスキーです。
ボウモア蒸溜所は海のすぐそばに建っており、潮の香りに包まれてウイスキーが造られるため「海のシングルモルト」とも呼ばれています。
香りはドライでスモーキーな中にレモンがほのかに香り、味わいはスモーキーでダークチョコレートのようなコクが感じれられます。
アイラモルトの特徴であるクセの強いピート感の中でも穏やかな方であるため飲みやすく、余市を好きな方にとってアイラモルトへの足がかりとできる1本です。
オーバン14年
「オーバン14年」は西ハイランドにあるオーバン蒸溜所で製造されるシングルモルト・スコッチウイスキーです。
オーバンはハイランドモルトとアイランズモルトの特徴を兼ね備えたライトなスモーキーさとしっかりとしたボディが特徴であり、余市のスモーキーさや重厚なコクに通ずるものがああります。
ハイランドパーク12年 ヴァイキング・オナー
「ハイランドパーク12年」はアイランズに位置するハイランドパーク蒸溜所で製造されるシングルモルト・スコッチウイスキーです。
ピート香のスモーキーさとシェリー樽に起因する甘みが特徴です。
スモーキーさと甘さは余市に近いものがあり、余市とハイランドパークは同一線上にあるウイスキーと言われても納得のいく味わいです。
まとめ
余市の味わいはまさにニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝が目指した本物のウイスキーの味わいと言え、ニッカらしさが存分に味わえるウイスキーです。
本物のウイスキーを造るため、たとえ非効率な方法でも伝統を守り続ける情熱と職人の技によって生み出されるシングルモルト「余市」をぜひお愉しみください。