ウイスキーのピートとは?ピート香の特徴とピーティなおすすめ銘柄5選

ウイスキー ピート

ウイスキーに関連する記事やBarでの会話の中で、「ピート」・「ピート香」・「ピーティー」といったようなピートにまつわる言葉が良く登場します。

実はこのピートという言葉、ウイスキーにおいて非常に重要な材料なのです。

本記事では、「ピート」について解説するとともに、ピートが生み出す香りの特徴とそれを愉しむことのできる具体的なウイスキー銘柄についてご紹介していきます。

目次

ピートとは「泥炭」

「ピート」とは、日本語では泥炭(でいたん)や草炭(そうたん)とも呼ばれ、枯れたシダやコケ類・かん木などが堆積し、長い年月をかけて炭化することで形成された「泥状の炭」です。

ピートは主に気温の低い涼しい気候の沼地・湿地で形成されますが、水分が多い事で地中動物や微生物の活動に必要な酸素が不足状態となり、ピートの原料である植物の分解が十分に進みません。

そのため石炭のような完全な炭にはなれず、炭化度が低い「泥状の炭」となります。

ピートは一見普通の泥に見えますが、「炭」と言われるだけあって可燃物です。

炭化度が低いうえに含水量が多い為、決して質の良い燃料とは言えませんが、ピートは乾燥させる事で火をともし熱源として利用できる燃料になります。

1.ピートの用途

ピートはウイスキーの原材料である麦芽を乾燥させるための燃料として使われます。

ウイスキーを作る過程には大麦を水に浸して発芽を促し、その後ピートを焚いて乾燥させるという工程があります。

スコッチウイスキーの生産地であるスコットランドは、冷涼な気候、連なる山脈と湖・川、海に囲まれたその地形からピートに恵まれました。

そのため、麦芽の乾燥にピートが用いられたのです。

2.ウイスキーにおいてピートが重要な理由

ピートはただただ麦芽を乾燥させる燃料としてだけでなく、ウイスキーの香りを決定付ける非常に重要な役割を担っています。

その役割とは、ピートを焚くことで麦芽へピートの香りが移り、スコッチウイスキーなどに代表される「スモーキーフレーバー」を与えるという事です。

時代とともに麦芽乾燥の効率化が進み、現在ではガスなどの燃料資源を使用した製法が主流です。

乾燥の熱源としてだけならば、わざわざピートを使用する必要はありません。

実際にスコッチウイスキーとジャパニーズウイスキーの一部を除いて、ピートの使用は一般的ではありません。

ジャパニーズウイスキーの父と呼ばれる竹鶴政孝は、「スコッチウヰスキー独有の芳香を加味する。最も重要なる燃料・ピイト」と「竹鶴ノート」に記しており、その重要性をスコットランド留学で学んでいます。

スモーキーフレーバーはまさにウイスキーの「個性」と言え、ピートがウイスキーの仕上がりに非常に大きな影響を与えるのです。

ピートの種類や産地で大きく変わるピート香

一概にピートと言えども、ピート香は使用するピートにより大きな違いが出ます。

それは、ピート香がピートの主成分や形成された土壌の特徴をダイレクトに表現するからです。

例えばスコットランド・アイラ島のウイスキー。

アイラ島では海沿いに蒸留所が位置しており、そこで採取されるピートは潮の影響を多分に受けています。また、その主成分は海藻です。

このピートから生まれるピート香は、海藻や海の香りの特性を抱き、ミネラルに起因した薬品のような香り(ヨード香)となります。

同じスコットランドでも、草花が多い地方ではピートの主成分がヒースやヘザーと呼ばれる低木植物となり、穏やかでフルーティーなピート香が得られます。

このようにピート香の違いを知ることで、より一層ウイスキーを愉しむことができます。

「ピーティー」と「スモーキー」の違いとは

ピート香を表現する際に良く使われる言葉として「ピーティー」という言葉と、「スモーキー」という言葉がありますが、この2つの表現は異なるものです。

以下のとおり「ピーティー」とは「スモーキー」という香りの中に属する1つの表現です。

正しい表現を理解し使い分けることで、より一層ウイスキーへの親しみが増します。

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スモーキー

燻したような燻香が漂うウイスキーの表現に用います。

スモーキーさは、その香りの種類に応じて「ピーティー」・「メディシナル」・「ハーシュ」という3つの表現に細分化されます。

ピーティー

スモーキーの中でも特に良い香りを指す表現です。心地の良い芳しい燻製の香りです。

メディシナル

薬品のような香り(ヨード香)の表現に用います。いわゆる正露丸のような匂いです。

メディシナルという言葉は、薬品を意味する英語「Medicinal」です。

ハーシュ

スモーキーの中でも感じが悪く、あまり良い香りでは無い時にネガティブな表現として用います。

ピートレベルとフェノール値の関係性

スモーキーさは、化学的に見ると「フェノール化合物」と呼ばれる物質により生じます。

麦芽をピートで焚くことで、フェノール化合物が麦芽に吸収され、スモーキーな麦芽が出来上がるのです。

麦芽に吸収されたフェノール化合物の量について、ppm(百万分率)という単位で表したものを「フェノール値」と呼びます。

このフェノール値が高いウイスキーは、スモーキーさを生じさせる物質を多く含んだ麦芽で作られているという事となります。

※ppmは%(パーセント・百分率)と同じように割合を表す単位で、1ppmは0.0001%となります。

ここで注意が必要なのは、フェノール値は完成したウイスキーに対する指標ではなく、あくまでも原材料となる麦芽に対しての指標という事です。

フェノール値が高ければよりスモーキーなウイスキーとなる傾向にはありますが、必ずしもその値に比例してウイスキー自身がどんどんスモーキーになっていくわけではありません。

それは、香りは熟成等の影響も受けるためです。

フェノール値の大小については、「ピートレベル」という言葉で表現します。

一般的にフェノール値10ppm程度であればピートレベルは低く、わずかにスモーキーな香りがするウイスキーとなります。

25ppm程度でピートレベルは中位、40ppmを超えてくるとピートレベルは高いと見なされ強いスモーキーさが得られます。

フェノール値はあくまでスモーキーさを想定する上での一つの目安として、参考にすると良いです。

ピート香の強い代表的なウイスキー銘柄5選

ピート香がしっかりと感じられるウイスキー銘柄はたくさんあります。

今回はその中でも特にスモーキーと言われる銘柄を、フェノール値と合わせてご紹介致します。

非常に強いピート香はスコットランドのアイラ島で作られるウイスキー(アイラモルト)の大きな特徴です。

今回ご紹介するウイスキーは漏れなくアイラ島の蒸溜所で作られているウイスキーです。

アードベッグ10年

アードベッグ10年

アードベッグは、強いスモーキーさと繊細な甘みが調和した香りを持つスコッチウイスキーです。

スモーキーさが特徴であるアイラモルトの中でも特にスモーキーな銘柄として知られ、ピートレベルはスコッチウイスキーの中でも随一。フェノール値は60ppm前後です。

香りはヨード香に柑橘とチョコレートのような甘みが加わっています。

味わいはややピリッとした刺激を感じますがスモーキーフレーバーの余韻が長く、後味には甘みが残ります。

アードベッグは、間違いなく一度飲んだら忘れられない味となります。

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オクトモア 10.1 スコティッシュ・バーレイ

オクトモア 10.1 スコティッシュ・バーレイ

オクトモアは、ブルックラディ蒸溜所で造られている世界で最も強いピート香を持つスコッチウイスキーです。

世界最強のフェノール値を誇り、その値はなんと167~309ppmです。

前述したアードベッグと比較しても圧倒的な差です。

香りはさすがの力強いピート香で、焚火を思わせます。加水することで繊細な香りになっていきます。

味わいは原材料である大麦本来の風味を感じ、スパイシーさとオーク樽由来の甘みを感じます。

オクトモアは毎年のように新しいエディションが発表され、多くが数量限定商品であるため、ややレアなウイスキーです。

そのためウイスキーファンにとっても非常に注目度の高いウイスキーであり、ぜひ覚えておきたい銘柄です。

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ラフロイグ10年

ラフロイグ10年

ラフロイグは、「アイラモルトの王」とも呼ばれるスコッチウイスキーです。

フェノール値は40~55ppm。

香りは薬品を思わせるヨード香で、磯の香りが混じった独特な香りです。

味わいはオイリーでコクがあり、塩味や海藻を思わせる後味。

「好きになるか、嫌いになるかのどちらか。」と昔から評されるほど、香り味わい共に強烈な個性があります。

ラフロイグの強い個性は一度ハマってしまうと口当たりの軽いウイスキーでは物足りなくなってしまい、世界中のウイスキーファンに愛されるようになりました。

ウイスキーを飲みこなせば、あなたもラフロイグに辿り着きます。

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ラガヴーリン16年

ラガヴーリン16年

ラガヴーリンは、スタンダードエディションで16年という長期熟成が特徴であり、もちろんスモーキーな香味には強烈な個性があるスコッチウイスキーです。

フェノール値は34~38ppm。

香りは海藻を含んだヨード香と、上品な深みのある甘い香りがします。

味わいは力強いモルトと、ドライフルーツのような甘み。

長期熟成により荒々しさが抜けており、スタンダートにして非常に完成度の高いウイスキーですので、個性の強いアイラモルトの初挑戦には、ラガヴーリンが最適です。

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カリラ12年

カリラ12年

カリラは、しっかりとスモーキーでありながら、軽やかで料理との相性が良い味と香りを持つスコッチスコッチウイスキーです。

フェノール値は34~38ppm。

カリラという名前はゲール語で「アイラ海峡」を意味しており、カリラ蒸溜所がアイラ海峡に面した場所にあることに由来しています。

香りはスモーキーさとフルーティーさのバランスが良く、ラフロイグやラガヴーリンと比較して軽くてクリーンな印象です。

味わいは、はじめは甘くてスモーキーさが余韻として残ります。

アイラモルトのスモーキーさは好みだけど重厚さが苦手という方には、カリラが最もお薦めです。

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まとめ

ピートは植物や木、海藻などから出来た泥状の炭で、ウイスキーの個性である「香り」を決定づける重要な材料です。

スコッチウイスキーに代表されるスモーキーなピート香は、ピートの成分やピートが作られた環境により大きく異なるのが特徴です。

アイラモルトのように香りが強くクセのあるピート香を持つウイスキーもたくさんありますが、ウイスキーの個性を形成するピート香はまさにウイスキーの醍醐味です。

ピートを知り、ピート香を愉しむことが出来るようになれば、より一層ウイスキーの愉しみが増します。

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